いま本が危ない。

 内容が危ないんじゃなくて存在が危ういんである。

 私を含めていまのメディア世代の人達は情報を得る手段の帯域がやたらに広い。こうしたインターネットを含める新しいメディアに氾濫する情報は、うまいこと整理整頓することさえできれば本なんてものは必要ない。デジタル時計ができても時計の秒針がなくなることがないように、いくら情報サイエンスが多種多様化しても活字文化が消滅することはないが、あるものについては必要性が問われ、あるものはついては存在価値を疑問視せざるを得なくなってきている。いまはまだ互いをうまく利用することによって均衡を保ってはいるものの、ここで紹介しているようなノンフクションな書籍に関しては、かなり危うい立場におかれている。

 ライター達は通信を利用して資料を得て、それを再編して作品にすることもあるだろうし、逆にその書籍によって得た知識を通信上に披露する読者としての発信者もいるだろうが、フィードバックされ互いにコラボレーションされた情報はすでに一次発信源があやふやになり、場合によっては偏ってさえいる。このホームページで紹介している書籍のなかにも、そうした本は数多くある。クロスメディアなんていう気取った単語には辟易だが、互いを認めあうことを忘れ、一方のメディアに偏った知識を身につけてしまった人達を増やしていることはたしかだ。

 このサイトで設けている『鬼畜』なるカテゴリーも、ダンズグロテスクギャラリーのようなネット上でのグロテスクムーブメントと、『羊たちの沈黙』や『Xファイル』に代表されるフィクショナルなサイコブームと、『危ない1号』や『TOO NEGATIVE』などによる表現の自由に挑戦した出版界による、まさに多メディアを往来する自発性のない情報の干渉によって生じた複合的産物だが、その現象を客観的に語る者は少ないし、ましてや表現者自身、ブームをディスチャージしている自覚などなかっただろう。

 カウンターパブリックソサエティの一形態としてあるゲログロなホームページで満足してしまったネット世代の人達は、ただのエロ本であった雑誌『BILLY』の存在を知らないし、その逆に『BILLY』を読んでいた世代のオヤジなどはパソコンすら持っていない。それらの橋渡しができる知性とメディア間の整理こそが今後必要とされる編集工学であろうし、当サイトの目的でもある。メディア間の隙間に偶発的に発生してしまったイベントを把握することは困難なことだが、できる限り広い視野をもって今後もあやしい書籍を紹介していきたいと思う。

 このサイトでは『飽食日本の書籍100冊』と題して好き放題の書評をさせてもらっているが、書籍同士、またはその著者のホームページやリンクを通して少しでも書籍とネットの接点を見出してもらえれば幸いに思う。

 最後に、このホームページを作成するにあたってMacintoshとスキャナーと98とプリンタを格安で提供してくれたうえに、うん百万円相当のソフトを大量にピーコくれたMUC氏、WEBの可能性を教えてくださったTKO氏、詳細な指摘と英文のリライトをしてくださったAC/DC氏、またライブいこうねのTくん、そしてWEBアンダーグラウンド界に君臨する皆様方。皆さんのご支援と協力がなければこのサイトはありえませんでした。そしてNIFTY-ServeのBBSとBAND-BとHPに特別な敬意を持ちつつ、あとがきとさせて頂きます。

                         

1997/06/08 Micky

I've to go for shit